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沖縄と北海道の道から道へ。軍用機が行き交う空、エメラルド色の海とその隅の工事車両、カーラジオをかけて走る石垣島の乗合バス、沖縄に夢を見る大学生達と琉球民家で泡盛と踊りと笑いと涙。そして道東の根絶やし海岸、最高気温七度の春、名物「とり弁当」…、置き去られた風景に、繊細さと朴訥(ぼくとつ)さを兼ね備えたコレクション第五集。

 沖縄は何度目かだが、いつも思うのは海が異様にきれいな色をしていて、夢のように色彩が豊かだけど、沖縄の海はただ美しいだけではない。戦争中にこの海や陸で理不尽な形で人生を終わらせた子供や女性、老人が何万人もいたという。「こんなにきれいな海なのに?!」と思わずにいられない。そして今もこの上空を軍用機が飛び交っている。夢のように美しい島々で。何となく平和のことを想ってしまう海。■

 沖縄のエメラルドグリーンの美しい海を背景に、工事車両が停められていて、静かで誰もいなかった。本土よりも光が強い分、色鮮やかな分、車両の「影」は濃い。
 都会の人々が休暇でやってくる観光地というのは、何かしら裏方の、準備の仕事があるのだろう。今のこの時間は、準備の仕事の準備中。■

 竹富島の海岸で、台風などで打ち倒された木々に生きた葉っぱがついていた。放っておかれた様子が良かった。
 石垣島にある川を、河口から上流に向けてカヌーで上っていき、林の中を歩いた。カヌーそのものも面白かったけど、同行した地元の案内人とは年齢がほぼ同じだったせいか、気が合って色々と話が弾んで発見も多くて楽しかった。
 石垣島では乗合バスなのに運転席でカーラジオをかけていた。夕闇を走るバスの中、運転席に近い席に座り暗くなった外を眺めながら、NHKの「列島リレーニュース」を聴いた。番組は全国放送で、今自分がいる石垣島は日本のかなり端っこだけど、行ったことのある地方都市や大都市などの各地が、妙に身近な感じがした。■

 網走の海の色は沖縄とは全く違う。五月なのに日中気温は十度もなく寒かった。向こうに見えるのは知床半島。数多くの貴重な野生動物が生息していると聞くと恐れ多い気がする。
 この海岸からしばらく内陸に牧場があり、通りかかった私を見て一頭の大きな牛が両方の前足を勢いよく上げて威嚇してみせた。牧場を営む七十代の男性がすぐに来て、「あいつは獣医が苦手で、きっとそれと間違えているんだろう」と言う。
 その方にはいろんな話しを伺った。引き継いだ酪農のこと、飼育する動物との別れのこと、近くの斜里岳に(当時の)皇太子様が登山したこと、また子供の頃はこの浜で食べられる植物がいっぱい穫れたが、「業者」が根こそぎ持って行って何も無くなってしまったとも話していた。
 宿泊した網走の古い民宿には流氷観測記録が食堂に貼り出されていて、流氷が徐々に減少しているのが分かる。
 稀少化する野生動物、根絶やしになった海岸、消える流氷。さみしいっていうか、人間の業というのか、仕方ないって話なのか、怒りか悲しさなのか、こういう気分て何て言ったらいいんだ。■

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