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自然豊かなアラスカの、素朴な街並の中に輝くワンシーンを捉えた「エルボールームキャバレー」、カナダ・バンクーバーの都市生活を明るく描いた「公衆電話のある街角」、「木かげ道」など、透明感のあるカラリとした青空の中に色と光が踊るコレクション第六集。

 フェアバンクスはこの季節は白夜なので夜になっても夕方のようだった。
 歩道で描いているこの絵を見て「アメージング!」と大げさに驚いていた人がいた。彼はこの絵の中にある真っ赤な看板のアンティークショップの男だった。
 彼は私が絵を描き終わるのを待って、アラスカのパイプラインや丘からの街の展望風景を見せに、白夜のドライブに誘ってくれた。年齢はほぼ同じくらいで、私は片言の英語だったが話
していたらまるで学生時代の友人のようだった。
 四輪駆動のピックアップ・トラックであっちこっち行って、歩き回ったり話をしたりして、気づくとすでに深夜12時くらいになっていた。白夜は時間の感覚が無くなってしまうのだ。
 深夜、ホテルに送ってもらって別れた。別れ際、「ムースって動物も見せたいんだ。夜ばかりの季節にもまた来てくれよ」と言っていた。■

 チャールズ・チャップリンの「黄金狂時代」という有名な映画の舞台となっていたのがこのフェアバンクスだという。
 黄金を求めて金鉱を探り、欲にかられて仲間同士で揉め事を起こす、空腹のあまり靴を食べてしまう、妄想の中でロールパンの見事なラインダンスを披露するなど、世界的な名シーンの数々、奮闘活躍するも美しい女性たちから見くびられ嘲笑を受けるチャプリンの姿が心に残っている。
 現地で知り合い、ガイド役を買って出てくれたクレイさんという地元の白人男性は、父親が石油パイプラインにたずさわったエンジニアで、自身もアラスカが大好きだと言う。
 その男にかつての金鉱採掘現場やフェアバンクスを一望する高台にクルマで連れて行ってもらった。チャプリンの映画のような極寒ではなく夏だったから白夜で、遅い時刻でもずっと夕暮れのような景色が広がっていた。
 採掘現場に行ってみたら、かつて使われた機械がそのまま残っていた。置き去りにされ錆び付いて錆のかたまりのように、野ざらしになって、百年前のゴールドラッシュ、「黄金狂時代」の世界に一歩足を踏み入れたようだった。
 また街では現地のネイティブ(大陸原住民の末裔)で、生活保護を受け、昼間から酒飲んで酔っぱらってフラフラ歩いている人を何人も見かけた。過去の原住民の立派な記念像というのも見かけたし、実際に話もしたけど、何だか複雑で悲しい現代社会問題がそこにはあるようだった。■

 アラスカなどという田舎からバンクーバーに来てみたからか、やたらと風景のあちこちがキラキラして見えた。アラスカは青空や白い雲が輝いて見えていたが、こちらは街全体が鮮やかで建物などに陽光が反射してきらめいていた。
 あるドラッグストアのマネージャーの白人女性はすらりと背が高く、黒いスーツを着て、上品な眼鏡がスルドイ感じだが、元気でバイタリティがあり優しい笑顔。雑談の中でアメリカ人とカナダ人ははっきりとした違いがある、とユーモアを交えて話してくれた。
 摩天楼の通りの向こうに大きなタンカーが行き来しているのが見える。自然に抱かれていながら都会的でいきいきとした優しさも感じていた。■

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